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9,124 views風水は、古代中国の漢の時代を発祥とする一種の自然観であり、環境学です。
「風水が環境学?占いじゃないの?」と思われた方も少なくないのではないかと思いますが、風水とは環境を整えることで自らを開運に導いていくもの。環境学は、環境が人間や動植物にもたらす影響を研究する学問のことです。更に細かく掘り下げると、感覚や身体との関係に重点を置いたものが『環境生理学』、心との関係を重視したものが『環境心理学』となります。
「環境が影響を与えるってどういうこと?」と首をひねった方は、ちょっと想像してみてください。ひっきりなしに電車が通る線路が隣にある家と、線路から遠く離れた家。前者の住居に住んでいる人は"騒音や振動が止まない環境に悩まされるという影響を受けている"と思いませんか?良くも悪くも環境から影響を受ける事は、身近な所でも実感できるものなんです。
漢の時代、中国の人々は異常気象や黄河の氾濫などの自然災害と戦いながら生きていました。そんな苦境の中で、いかに快適な環境を作れるかという観点から観測を繰り返し、集めたデータをもとにより良い生活空間を作ろうとの試みから風水は発展していったのです。
もともと漢民族の文化には「万物の間には『気』が流れており、秩序や生気をもたらす」との考えがありました。実際に身体で感じる空気の流れであったり、目には見えない気やエネルギーの流れである『風』や、空気中に含有されている水分を含めた自然界全ての水を表す『水』の流れ、更には地形や地脈、方位や陰陽の気などを考えて、良い気(生気)を取り込んで悪い気(殺気)を排除する技術とされた風水の発展を、その思想が一層に後押ししたと言えるかもしれません。
上記を踏まえてみると、環境から好影響を受け取るために行うものである風水と環境学がイコールで結ばれる事実にも納得できるのではないでしょうか。
風水は、もともと天を意味する「堪」と、地を表す「輿」が組み合わさり、天地全体を意味する言葉となる「堪輿」(かんゆ・かんよ)と呼ばれていました。
堪輿という名が風水という名に変わった由来は諸説あるのですが、『葬書』という書物に記された「気は風に乗じて散じ、水に界すれば止まる。古人はこれを聚めて散ぜしめず、これを行いて止めるあり、故にこれを風水と謂う」の一説が語源であるという説が一般的です。
何にせよ、天地における気の流れや陰陽五行、方位などを考え合わせて、住居やお墓の位置として最も吉相であると見られる地を判断する事が風水の本来の目的でした。
上記で言う住居とは、生きている人間が住む住居のことであり、生という活気にあふれた陽気のある宅という事から陽宅と呼ばれています。逆に、お墓は亡くなった人間が住むところ…つまり埋葬される墓地である事から、動かない陰の宅という事で陰宅と呼ばれているのですが、古代の風水はこの『隠宅(墓地)法』から発展したと言われているのです。
というのも、生者と死者の家…すなわち、陽宅と隠宅とをハッキリと区別する事が互いにとって良いものであるとされた上で、陰宅を最も良い地(龍穴)に選べば、そこに眠る祖霊が安定されるだけではなく、その子孫にも良い影響が与えられて運が良くなる事で一族の繁栄が望めるとされている為でしょう。
しかし、陰宅は本来土葬である事もあり、墓地の場所が定められているだけではなく火葬を用いる日本では余り使用されることはありません。そのため、現在の日本で知られている風水と言えば、土地の選び方、家屋の建造、部屋の内装などといった『陽宅風水』に当たると言えるでしょう。
古代中国で生まれ、発展した風水が日本に導入された時期については、実は諸説あります。古墳などから風水の片鱗が窺える事から風水の日本伝来時期は2世紀頃ではないかという説のほか、6世紀頃に古代の朝鮮半島を経由して仏教と共に伝わったとされる説など様々です。
中でも、6世紀頃に伝来したとされる説を掘り下げると興味深い話が見られます。実は、日本で最初に風水を学んで実践したのは、あの有名な聖徳太子だという話なのです。
歴法を伝えに渡来した僧侶が持ち込んだ風水書に興味を持った、推古天皇に寺を建てる土地を検討するよう依頼された折に中国に人を派遣して導入したなど、明確なキッカケこそ瞭然としませんが、聖徳太子が建立した法隆寺には風水の知識を使用した跡が見られる事から、彼が風水を学んで実用した事は事実と言えるでしょう。日本の寺院や神社が築かれる際、風水をベースにする様になったのはこの時からです。
また、聖徳太子は『墓相』にも非常に詳しかった事から陰宅法に造詣が深かったと断じられます。
聖徳太子は日々血で血を争う現実を目の当たりにしていたため、自分の子孫たちが天皇の位を得るべく争乱を起こす事などあってはならないとし、自らの子孫を絶やすために墓石に傷を付けるなどの細工をしたという話があるのです。
結果として、聖徳太子の子供たちは王位継承をめぐって争い、最終的には自害する結末を迎えた事で絶家となったという歴史的事実があります。後に物部氏に嫁いだ子孫から酒呑童子として名高い安間王が生まれますが、こちらも源頼光らの手によって滅ぼされてしまいました。
風水を学び修得した聖徳太子は、本来であれば一族の繁栄が望める陰宅法を逆手に取り、お墓が持つ強大な力を自分の血を途絶えさせることに使ったと言えるでしょう。
風水を大別すると『地理風水』『陰宅風水』『陽宅風水』の3つに分類できます。
『地理風水』とは、国家の建設や都市計画といった大規模な事業計画に使用される風水技術です。現在では滅多に用いられませんが、日本の平安京が風水学的に最高の地相とされる『四神相応の地』に造られた話は有名ではないでしょうか。
四神とは東西南北を各々守護する聖獣の事で、東に青竜、西に白虎、南に朱雀、北に玄武が棲むと言われています。それぞれの地相には特徴があり、東は流水・西は大道・南はくぼ池・北は丘陵が備わるとされているのですが、平安京は、東に鴨川・西に山陰道と山陽道・南に巨椋池(現在は埋め立てられてしまいました)・北に鞍馬山と船岡山がそびえるという、正に理想的な地相にあるのです。
『陰宅風水』については前述していますが、ざっくり言うと、良い地相とされる龍穴に遺体を土葬して子孫の繁栄を望むものです。
聖徳太子の例から見ても、大地のエネルギーが遺体に作用して子々孫々に影響を与えるという陰宅風水の力は強力です。だからこそ風水発祥の地である中国では、本来の目的でもある陰宅風水が発展し続けたのでしょう。
母体から生まれ、死んで母体(母なる大地)に帰るという意味を持つ陰宅風水で造られたお墓は、前面が開かれた半分のドーム型となっています。この独特な形状、古墳に似ていると思いませんか?7~8世紀に造られたとされるキトラ古墳は、この陰宅風水を用いていると言われているんですよ。
『陽宅風水』に関しても軽く触れましたが、こちらは住宅の風水を意味します。言わば地理風水の規模を最小限に縮小したものと言えますね。
代表的なものに『四合院』という家造りがあります。高い塀で囲った敷地の中央に広い庭を設け、南東に大門を設置し、北側に南向きで母屋を据え、その両隣に小さな家を置く…この配置は風水上で最良です。
とは言え、こちらも日本では適応させる事が難しいもの。近年、日本でもよく知られている陽宅風水はインテリアの配置や色などで調整できるものです。国柄、時代などで風水の定説も異なりますし、日本で発展した『家相』という開運学もあるので、最初から諦めるのではなく柔軟に開運方法を取り入れてみてください。
『三元九運』という言葉をご存知ですか?
これは風水の時間概念であり、地運(大地の運気)の時間計算に用いられる理論…と言うと少々分かり辛いのですが、ザックリ説明すると「20年ごとに地運の流れは変わり運気が変化する、その20年の区切りの元になっているものが三元九運」という事です。
古代中国で発達した甲子から癸亥までの六十干支という暦、その一周60年が3回繰り返されて180年という大きな周期を作るとの考えが風水思想にはあります。
最初の60年は新たなものが生まれる時代である上元、続く60年は上元で生まれたものが繁栄する中元、最後の60年は次第に衰退していく下元。これが『三元』です。
更に、上元が一運・二運・三運、中元が四運・五運・六運、下元が七運・八運・九運と、それぞれの三元を20年周期で9つに分けたものが『九運』となるのです。
三元 (各60年) |
九運 (各20年) |
六十干支 | 西暦 | 呼び名 (五行) |
---|---|---|---|---|
上元 | 一運 | 甲子~癸未 | 1864~1883年 | 一白水運 |
二運 | 甲申~癸卯 | 1884~1903年 | 二黒土運 | |
三運 | 甲辰~癸亥 | 1904~1923年 | 三碧木運 | |
中元 | 四運 | 甲子~癸未 | 1924~1943年 | 四緑木運 |
五運 | 甲申~癸卯 | 1944~1963年 | 五黄土運 | |
六運 | 甲辰~癸亥 | 1964~1983年 | 六白金運 | |
下元 | 七運 | 甲子~癸未 | 1984~2003年 | 七赤金運 |
八運 | 甲申~癸卯 | 2004~2023年 | 八白土運 | |
九運 | 甲辰~癸亥 | 2024~2043年 | 九紫火運 |
上記の表を見ると、現在は下元の八運に相当します。
一運~九運は各々陰陽五行の属性を持っており、八運は「土」の気が強まる時期です。「土」は植物が発芽する様子から万物を育成し保護する性質を表す反面、根腐れを起こす事から腐敗の象徴でもあると言われています。「土」は五行の中心であると同時に、始まりと終わりを内包している元素であると言えるかもしれません。
また、三元九運の法則により下元八運の最大吉数はそのまま「8」となります。風水では1~9の数字それぞれに吉凶があるとされていますが、「8」はもともと大吉の数字です。下元八運のラッキーナンバーは間違いなく「8」であると言えるでしょう。
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