
東洋占星術のなかには、四柱推命や紫微斗数、九星気学、算命学のほか、奇門遁甲(きもんとんこう)や六壬神課(りくじんしんか)といった様々な難解占術があり、現代においてはその占術を熟知している人も少なくなりつつあります。
九星気学や四柱推命は、誕生日や干支をベースにしておりますので言うまでもなく命術占いではありますが、実は奇門遁甲や六壬神課は卜術占術であり、三国志時代に用いられた
吉凶方位やタイミング、戦略を占う占術
として、広く伝わったとされています。
九星気学や紫微斗数、奇門遁甲など四文字熟語で構成される占術名ゆえに、何かしらの繋がりや関連性があると思いがちですが、占術のとおり四柱推命や九星気学は命術、奇門遁甲は卜術ではありますので、基本的に
陰陽五行や干支暦をベースとしている以外は関連性がない
というのが実のところ。
奇門遁甲の概念のなかにも「九星」という占術要素が存在していますが、九星気学における九星とは概念も異なれば、関連性もありませんので、その点を理解したうえで、双方の占術概念をしっかりと理解する必要があります。
なお、改めて説明の余地はないかもしれませんが、九星気学における九星は、生年月日に応じて割り当てられる基本的な気質・性格を示す星で
中国古代の洛書(らくしょ)という宇宙の数理図から生まれたもの
です。
一方、奇門遁甲における九星とは、3×3の盤上に九星を配置し、取るべき行動や取るべき方位、そして吉凶判断に用いられるもので、八門・八神・九星・干支を組み合わせて吉凶を占います。ちなみにこの八門とは
開門・休門・生門・傷門・杜門・景門・驚門・死門
を差し、ドラマなどの劇中にも「戦場の布陣」として用いられることが多い傾向にあります。
八門が差す象徴は「どの行動が吉でどの行動が凶かを示す指標」であり、戦を仕掛けるタイミングなのか、富国造兵のタイミングなのか?の判断などに用いられました。
そして八神とは
天符・騰蛇・太陰・六合・勾陳・白虎・九地・九天
から構成され、八方位の象徴として方位吉凶の判断に用いられます。
過去記事「▼五行思想における四神の存在と九星気学での四神方位の捉え方」でも取り上げておりますが、五行思想における四神は自然界や宇宙の象徴的存在であるのに対して、奇門遁甲の八神は
時間・方位・行動に対する神的象意
となりますので、混同しないようにしましょう。
少々小難しい話ではありますが、整理すると
となり、八門が行動に対する吉凶、八神が方位に対する吉凶と言えば分かりやすいと思います。
そして、その組み合わせの最大の要素となるのが「九星」で、九星気学は奇門遁甲の簡素版などと言われることがありますが、
概念からしても全く異質のもの
であり、奇門遁甲から派生したとか、奇門遁甲の九星をオマージュした、などということはまったくないと考えた方が良いでしょう。
今回の記事では、そんな奇門遁甲と九星気学における「九星」の違いをテーマに、特に奇門遁甲で用いられた九星の捉え方について詳しくご紹介していきます。
八門・八神・九星・十干十二支
これだけでも覚えるのが大変でもある構成要素ですが、諸葛孔明をはじめとする三国時代の軍師たちは、この卜術占術を操っていたというから少々驚きかもしれません。
この難解占術、中国古代の三式のひとつ、最高レベルの秘術でもある奇門遁甲を少しだけ紐解いてみましょう。

さっそくですが、奇門遁甲における九星について詳しくみていきましょう。
奇門遁甲の構成要素である九星は、具体的に
に分類されます。
日本語読みでは「てんちゅうせい」が2つ存在することになりますが、九星気学における中宮を定位とする「五黄土星」のような星もあります。3×3マスの九宮盤(九星気学における後天定位盤のようなもの)では、
中央を定位とするのが天禽星
とされ、他の八星を支配する星として位置づけられています。
奇門遁甲においても、各星に割り当てられた象徴・象意があり、それぞれが示す象意は以下の通りです。

※図表はAIによる生成です。
さらにこの九星に前段でご紹介した八門・八神を加えると

※図表はAIによる生成です。
という対応となり、各星に応じた五行属性や八門との相関性が一目で分かります。
この奇門遁甲の主要構成要素となる九星、八門、八神においては、それぞれで象意・象徴が定義されますが、互いに相互関係を持つことで、三位一体で吉凶を判断するのが奇門遁甲の最大の特徴です。
と例えると分かりやすいかもしれません。
もう少し紐解いて詳しく見てみると、九星における九宮の配置については、洛書(天地自然の数理)という古代中国では多くの占術で用いられている思想に基づいています。この洛書は、洛書九数(方陣)とも呼ばれており、基本概念としては
気の循環(天地運行)を示す
とされることから、基本的には運気・運勢の循環や運航、変化などを示すものとなりますが、九星気学における九星は人の性格や運勢、方位運を示すのに対して、奇門遁甲における九星は天の気の運行を示すことから、そもそも対象としている象徴が異なるだけでなく、
奇門遁甲における九星は現代の天気予報だった
といっても過言ではありませんでした。
三国志などをはじめとすると当時の古代中国の戦国時代において、戦の勝敗を決定付ける大きな要因として天候がありました。
特に雨季や乾季は進軍に大きな影響を与えるだけでなく、作物の収穫量=兵糧の量にも多大な影響を及ぼしたことから、現代以上に天気の推移や変化は重要だったのです。
つまり、九星気学の九星はあくまで生年月日を基にした命運を示すのに対して、奇門遁甲の九星は日々変化する気象運気を示したもの、ということを覚えておくようにしましょう。

これらのように、奇門遁甲は元々古代中国における国同士の戦争に用いられた戦略体系で、時間(干支)・空間(八門・八神)・方位(九宮)の三要素を用いて、その行動の内容や最適なタイミングを導いた軍略的易術が起源です。戦争とは縁遠い現代においては、その軍略的な占術から
ビジネスにおける戦略的活用に変遷
しつつあり、特に新規事業の立ち上げ、開店、社運を賭ける大きな決断などに際して、その行動の内容、そのタイミング、顧客層の絞り込みなど、あらゆるビジネスシーンで用いられますが、前段でも紹介したように占いそのものが難解であることから、一般的にはあまりメジャーな占術ではありません。
ご承知のとおり、現代においては九星気学や風水といった奇門遁甲の流れを汲んだ、多少なりとも簡素化した占術がメジャーであり、
軍事用占術である奇門遁甲まで深く使う必要がない
というのが実情かもしれませんが、九星気学の真骨頂でもある
「吉凶方位」という概念の源流となった占術
という点で、その功績は非常に大きいものがあります。
つまり、時代と共に軍事用途が徐々に薄れていき、ニーズ自体が軍略から運勢判断にシフトしたこと、そしてベストな行動タイミングや方位の判断などの流れを汲んで、九星気学や風水といった占術が生まれたことなど、様々な時代背景があり現代の占術に落ち着いたというのが実情です。
つまり、九星気学における人生診断も
言わば人生の軍略的診断
であり、人生における大きな判断は常に戦略的な意図を考慮したうえで判断しなければならないということでもあります。
実際に、現代における九星気学や風水の診断においても、ビジネス戦略や吉方取りに対応している占術師は数多く、当サイトおすすめの電話占いにおいても、単なる方位占いではなく
ビジネス用途を加味したリーディングを行う占術師が多く在籍
しています。
まとめになりますが、奇門遁甲における九星は、その方位で作用するエネルギーの大きさであり、当然周期変化を伴うものです。
一方の九星気学における九星は、その人が持つ基本的性質であったり、吉凶方位を日常生活に応用しやすくしたもので、基本的性質においては不変なものです。
同じ九星という言葉ではありますが、九星気学の九星は奇門遁甲の戦略的占術から派生したとは言え
星名も含めてまったく別の概念
であり、占術に使用する盤も含め、共通点はあまりないという点を理解しておく必要があります。
難解占術の代表「三式」のひとつである奇門遁甲は、盤の作り方から数式まで高度な専門知識が必要になるため、初心者にはかなり敷居が高いということを認識しておくようにしましょう。